会計監査を行う場合の、会計士としての倫理観、それと粉飾を見つけた時どうすべきか

前回は、会計士としてクライアントと意見が異なった場合の対応を考えてみました。今回は、もう少し、深刻な話を。だめというときはだめという、の極端な事例を考えてみます。ここでは、粉飾等の深刻な事例を考えてみましょう。

粉飾を指摘したら倒産してしまいそうな場合どうするか

よく、会計士の倫理を考えるにあたって、よくとりあげられる事例として、粉飾を見つけたらどうするか、というのことがあります。もう少し、具体的にいうと、会計監査に入ると、クライアントはどうやら粉飾しているらしい。でも、粉飾の事実をつげると、本来的には業績が悪い会社なので倒産してしまう。倒産すると、従業員や取引先は路頭に迷ってしまう、そうなると果たして粉飾の事実を指摘していいのか、、、。

そういった問いは、この仕事をしていると常に考えてなくてはならないことです。もちろん、そんな事態に陥ることはそうそうないですし、私自身も幸いにしてそういうことに出会ったことはありません。ですが、それに備えて自分自身の考えというものをもっておくことが必要と思います。

ちなみに、私は「その後、どんな影響があれ、粉飾しているならばその事実を明らかにすべき。」という意見をもっています。当たり前といえば当たり前ですし、時には非人間的だといわれることがあるかもしれません。ただ、それなりな根拠はもっています。以下、その根拠を紹介します。

いずれは発覚する

粉飾、いずれは発覚します。それは、会計士が見逃そうと見逃すまいと、それについては変わりません。1年、2年のズレはあっても発覚するのだ、と思います。粉飾が発覚する、そのきっかけは2つ考えられます。

一つは従業員や取引先の通報によるもの。粉飾するとすれば当然にその動きは秘密とされます。とはいえ、従業員や取引先は粉飾に伴う不自然な動きを察知していることがあります。その場合、自分の胸にとどめておくことができず、なにがしかの通報行為を行うこともありえます。全てにかん口令を引くことは実質的には相当困難でどこからか情報が漏れることが往往にしてあります。特に恨みを持ったりしていると、関係当局に密告ということもよくあることです。そういったことで粉飾等の悪事は漏れやすいのです。

もう一つは会社の破たん。粉飾というのは、もともと、業績が悪いのを取り繕っているだけです。会計数値をどんなにいじっても会社の業績の本質は変わりません。さらには、会計数値をいじる、と、実態が見えにくくなるとともに、会計数値の操作にエネルギーを注いでいるので業績の回復に人員を割きにくくなります。そうすれば、将来的には経営破たんという可能性が極めて高くなります。破たんしてしまえば、粉飾していたことが自然にわかります。つまり、粉飾してその場はしのいだとしても、将来的には破たんしその事実が発覚する可能性が極めて高い、ということになります。

真の原因は業績が悪いこと

破たんした理由、それは「業績が悪い」ことです。確かに、それを隠していてそれを暴いた、その時点で企業が経営破たんしてしまうことがあります。ただ、それはあくまでもトリガーイベントにすぎず、本当に経営破たんしたのは、業績が悪かったからです。さらには、業績が悪いことを明らかにしていれば、どこからか救いの手が差し伸べられる、ということもあったかもしれないし、傷も浅かったかもしれませんが、隠していてどんどん状況が悪化した、ということがあります。つまり、粉飾の事実を明らかにする、というより、もともとの業績悪化が企業、従業員、取引先の立場を危うくした、ということであり、公認会計士がそのことについて責任を感じる必要はないはず、そう考えています。

自分の身、そして仲間の身を守るべき

自分の身、仲間の身、粉飾を見逃すと守れなくなります。まずは、自分のことから。公認会計士が粉飾を見逃すとそれなりの責任を取る必要があります。その責任とは資格取り消し、であるとか、刑事罰や訴訟を受ける、ということがあるでしょう。このような処分を喰らうとその後の人生が相当厳しくなります。

ここで、自分の身、と書きましたが、本当に自分だけか、というとそうではありません。自分がダメージを受ければ、当然に自分の家族や友人にも影響があります。特に、配偶者、子供が相当つらい目にあうことでしょう。それを考えると自分の身を守る、ということは、非難されることではない、はずです。

また、仲間、つまりは同じ監査法人で働いている人のことを考える必要があります。粉飾を見逃したことが明らかになると、自分が属している監査法人に悪影響を与えます。そうなると、そのクライアントとはなんら関係のない職員やクライアントにも迷惑がかかります。

このように、粉飾を見逃すと自分の身ならず仲間にも悪影響を与えます。そうこう考えると、下手な温情をだして粉飾を見逃すべきではありません。

まとめ

粉飾を発見した、というとき、やっぱり指摘すべき、と考えます。取り繕っても結局判明するし、見逃したことが発覚すると自分だけではなく、家族、友人、職場の仲間も傷つけます。幸いにして、自分が指摘する立場にたったことはないのですが、そういった状況においても勇気をもって指摘できるようになりたいものです。粉飾はいけないことですが、「なぜ」というところまで考えを持っておくと、ブレーキがかかりやすくなるのでは、と考えております。

 

 

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