日本と台湾が「租税条約」を結んだって本当?~言葉の使い方に注意してみよう

久しぶりに、国際税務的に関するお話を。とはいえ、日本と台湾における二重課税防止に関する協定そのものをがっつり解説する、というよりは、それに関するちょっとした小咄的な話ですが。

時折、2017年1月から日本と台湾の間で租税条約が締結されそれが発効されるようになった、といわれることがあります。こちら、実質的な取扱いとしてはそのとおりですが、若干正確性に欠ける表現となっております。

実は、日本と台湾は正式な形での国交は樹立されておりません。背景としては、中華人民共和国の見解としては台湾を国家と認めておらず、日本としても外交上はそれに合わせているようです。これが、いわゆる「一つの中国」という考え方です(ちなみに、「一つの中国」の議論は、非常に深い議論でそれだけで1冊の本になってしまいますが、ここでは割愛します)。そのため、両国間において大使館もおいておらず、また、日本と台湾での間の条約というものはありません。

日本と台湾、正式な外交的な関係はないのですが、経済的、文化的には非常に強いつながりはあります。そのため、正規の外交ルートに代わる、コンタクト先、というものが整備されています。それが例えば、日本台湾交流協会という組織です。これは、公益財団法人ということで、民間団体ですが、日本大使館等がない台湾においては、あたかも在外公館としての機能を担うようになっています。ちなみに台湾側の組織は亜東関係協会ということになります。

さて、長い前置きが終わり、話は租税条約に。今までもこういった経緯があり、日本と台湾の間では租税条約がない、という状況が長く続きました。そのため、二国間をまたがる租税問題については、所得が発生した国の国内法に基づき取り扱われておりました。両国間では、経済的交流は活発でそれだと色々と困ることもあるのでしょう、両国間の租税に関する問題を取り扱う協定を作ろう、という議論が出てきました。

とはいえ、日本と台湾、国交がないため、条約を締結することができません。そのため、国家同士ではなく、交流協会と亜東関係協会が取り決めを結ぶ、という奇策に打ってでます。協定の正式名称は、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための 公益財団法人交流協会と亜東関係協会との間の取決め」といいます。通常の租税条約は、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とXXX国政府との間の協定」といい、政府間での決めごとになっています。が、日本と台湾の間は民間団体同士での取り決めとなっているので、ここが大きく異なるところです。とはいえ、取り決めの内容そのものは、他の国との間の租税条約と似通っており実質的に同じものだ、といえます。

民間団体どうしの協定が国の租税事務に影響を与えるのか、ということですが、それだけだと厳しいです。そのため、お互いの国内法で当該取り決めにそって、両国間の取り扱いを制定することになります。本邦においては、2016 年度税制改正大綱において、日台民間租 税取決めに規定された内容の実施に係る国内法の整備を行うことになったようです。

以上、長い文章となりましたが、結論としては、日本と台湾の間で租税条約が結ばれた、というのは、言葉として正確性を欠いている、ということになります。

 

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