解約返戻金付き生命保険を積立目的で使うときに気を付けたいこと

通常、保険は掛け捨てでいったんかけるとそれっきり返金はなされないのが通例です。ただ、生命保険の中には解約した場合にある一定額の払い戻し額があるものもあります。この払い戻し額を解約返戻金といい、このような生命保険のことを解約返戻金付き保険、なんていったりします。どの程度返ってくるのか、は、保険の性質によるのですが、長期平準型で1/2損金計上型と呼ばれるものは、払い込んだ保険料の90%程度が解約返戻金として戻されます。この、払い込んだ保険料に対してどの程度解約返戻金が戻ってくるか、を表したのを、解約返戻率といいます。

この解約返戻金保険を積立目的で使う、ということがあります。具体的には、いったん、このような生命保険を組んでおいて必要に応じて解約し解約返戻金を受領する、ということになります。例えば、役員に対する退職金のように一時に損金/支出が出るような場合に、あらかじめ、その時期に解約返戻率が高くなるように設定して、いざ退職金を払うタイミングで生命保険を解約返戻金を受け取りそれをもって退職金を払うことになります。

この方法のメリットとして、税務上の恩典が受けられると一般的には言われています。つまり、このタイプの生命保険の場合、全額であれ、1/2であれ保険料の部分を損金にすることができます。なので、その損金分だけ課税所得が減り、法人税等の支払い額が減ります。また、会社内から強制的に資金を出すので、その分、資金を確実に貯めることができます。ようは、中小企業の場合、会社に金があると、つい使ってしまい、結局退職金等の原資がなくなってしまい、支払ができなくなってしまう、ということを防ぐことはできます。最後は、これは若干子供だましっぽいのですが、貸借対照表上当該資金は現れず、簿外で積むことができます(損金部分についてのみですが)。さらに、生命保険の本質的機能である、万が一の場合の保証も合わせてつけることができる、というのも、メリットと考えていいでしょう。

他方、気を付けたいのは、通常、保険料は長期にわたり一定額支払うということです。どういうことか、というと、企業の業績というのは一定とは限らないですよね。儲かっていて節税対策が必要な時期に入るということもあるでしょう。ですが、企業の業績が悪化し利益が出ず、資金が手元になくても、保険料はどんどん出っていってしまい、損益にも資金にも悪影響を与えます。そうすると、なんのために積立いるのかわからなくなってしまいます。なので、節税目的の場合はその影響が長期にわたるので、長期的な業績予測が必要不可欠となります。この点をさして、高度成長期のように業績が右肩のぼりの時に適し、他方、今のように業績動向が読みにくい場合は適さない、こともあるので、「昭和の節税策」という人もいます。

もう1点、解約のタイミングの問題。結局、解約するタイミングはそんなに事前に決められるのですか?例えば、社長が65歳で退職するとして、そのタイミングで解約返戻金の返戻率が最も高くなるように設定したとしましょう。実際、中小企業の社長であれば、もっと長く社長を務めて退職が長引くということもあるでしょう。長引けば長引くほど、返戻率はさがってしまい、わりに合わないということもあります。また、解約する際に損金とできるものがないと、解約した際に返戻金の受領に伴う利益がどーんと、その期に計上されてしまい、結局、その分は法人税がかかってしまいます。なので、程よいタイミングで解約できるのか、というのが難しいところであります。

後は、生命保険の本質として保障に関する費用は不可避的にとられてしまうこと。解約返戻率90%の意味は、払い込んだ保険料のうち90%が戻ってくるということです。じゃあ、残りの10%は、、、というと、もともとのなにかあったときの保障見合いとして保険会社に取られてしまうものです。この10%については掛け捨ての生命保険の掛け捨て部分、と考えていただくとわかりやすいのでは、、と思います。つまり、積立と保障を合わせて得る分には特に問題はないのですが、積立だけを目的として考えた場合には、この保障に関する費用が預金と比べて不必要な費用の負担となってしまう可能性はあります。

さらに、これは保険だけではなく、他の節税策にもあてはまるのですが、節税をしすぎるとその分資金が会社から出てしまいます。例えば、保険料 100,000円を毎年負担するとしましょう。法人税等の実効税率を30%とすると30,000円だけ法人税等が浮くことになります。他方、会社に残るキャッシュを見ると、保険を設定した場合は100,000円資金が流出しますが、保険を使わない場合は100,000円-30,000円の70,000円が会社に残るので、キャッシュフローの確保という観点からは節税的なことはしないほうがいい、ということもあります。これは、交際費を使う等、他の節税策とも関連するのですが、特に保険の場合は長期に支出が発生するため、それがキャッシュフローに与える影響も大きくなります。

その他、論者によっては、「保険料の支払い/解約返戻金の受け取り、と、退職金による損金の計上はそもそも別個の事象であり、解約返戻金付き生命保険に節税効果はないのでは」という論もあり、それはそれで非常に説得力のある論証です。とはいえ、解約返戻金付き生命保険による節税効果や簿外積立は会社の状況によっては魅惑的に映ることはあるでしょうし、顧問先はそういうアレンジを望むということもあります。結局、生命保険を設定するにあたっては、長期な業績動向、解約のタイミングの見積もり、長期的な資金計画、会社としての税務戦略、そして最も大切なこととして生命保険の本質的機能である保障の必要性/程度を勘案し、全体が最適になるよう組んでいくことが大切なことではないでしょうか。

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