会計学とその近接領域 (20) ~ 会社法:中小規模の株式会社にかかる規制実務

今回で、20回目となった会計学とその近接領域。前回は、株式会社は資金を多く集めて大規模な事業を行う、ことを目的として設立される会社である、と書きました。ただ、実際は法が予定する大規模な会社ばかりではなく、規模が小さい会社もあります。そういう会社にかかる規制実務を見てみましょう。

中小規模の会社の状況

以前は、株式会社は資本金 1,000万円以上でないと設立できませんでしたが、今では資本金の額に制限はありません。そのため、非常に小さい規模でも株式会社を作ることができました。そうなると、株式会社の特徴である、株式の譲渡容易性、有限責任制、といったところをあると、色々と弊害がでてきます。

例えば、中小規模の会社においては所有と経営が一致している、つまり株主がそのまま会社の業務を執行している場合がほとんどです。そういった場合において、株式が簡単に譲渡されてしまうと、好ましくない人物が経営に参画する可能性もでてきてしまいます。

また、中小規模の場合、債権者が安心できるほど、会社に財産がない状態がほとんどです。そのような状況において有限責任制だと債権者が信用を提供しない、ということがありえます。

株式の譲渡制限

まず、会社法では株式の譲渡制限という制度を設けて、株式の譲渡容易性を制限しています。これは、定款に株式の譲渡については株主総会の承認(取締役会設置会社においては取締役会)を要する旨を定めておくことができます。つまり、株式の譲渡については勝手にはなされないため、会社にとって不都合な人物が株主になることを防ぐことができます。ただし、この場合、株主の出資回収の手段が奪われてしまうため、株式譲渡を承認しない場合には会社に譲渡制限株式を買い取る義務が生じます。このように、株式の譲渡制限制度を使うことにより、株式譲渡容易性を低めることができます。

社長等への個人保証

会社法上は株主の有限責任制を弱めることは難しいです。一応、会社制度を悪用する場合には、法人格否認の法理、というものもあるのですが、実務上、あまり利用されないようです。そのため、銀行などでは、借入を行う場合には社長等の個人保証を求めるようです。そうすることにより、会社の事業が失敗したとしても社長等の個人の財産から債権を回収することが可能です。このように、個人保証を求めると、無限責任を負うこととほぼ同様の効果となります。個人保証を求めるかどうかは、銀行の判断によりますが、割と求められている事由も多いようです。

まとめ

株式の譲渡容易性、有限責任制については中小規模の会社だと実態にそぐわないこともありえます。そのような場合、株式譲渡制限や個人保証により、これらの制度を弱めます。こうすることにより、より実態に即した制度の運用となります。

 

 

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