イタリア街歩き記 補論 帰国後 海の都の物語の読み方はどう変わったか

イタリア街歩き記、街歩き自体の話は前回で終了です。で、帰国してから改めて海の都の物語を読み直してみました。本の紹介と読み方として変わった点を少しまとめてみます。

以前も、とりあげていますが、海の都の物語はベネチア共和国が成立してから終焉するまでの約1,200年程度の歴史をまとめています。一言でいうと、この本では、海運国として発展し、同じく海運国であったジェノバを蹴落として、ベネチア共和国がどんどん発展していき、それがやがてオスマントルコやヨーロッパの列強との関係、海運の中心が地中海から大西洋から映り徐々に衰退していき、最後はナポレオンにより制服されることにより終わっています。

その間、政治、経済、文化、外交などベネチア共和国の制度、環境をそれぞれ独立させた項目でかきつつ、周辺諸国との関係を時代ごとに書いていく、というスタイルで書いています。つまり、縦に時間を流しながら横でこういった項目を入れている、というようなイメージです。

ベネチア共和国の特徴として、アンチヒーローの国というとらえ方をしていて、もちろん、人のことも書いてはいるものの、どちらかというと人は中心にせず、制度や環境に焦点を当てた文章になっています。これは、人に焦点を当てて書いている、「ローマ人の物語」と読み比べてみると感覚的に理解いただけるポイントではないかな。

それで、ベネチア旅行後、見方がどう変わったか、ということですが、内容に対する理解、という点ではそれほど変わりません。ただ、読んでいて、ベネチアの記述があると、情景が頭に浮かぶようになりました。作中でも、今でも残る、元首官邸、サンマルコ寺院、サンマルコ広場、リアルト、、、の記述が出てくると、そこの情景がふわっと頭の中に浮いてきます。これは、当時のベネチア共和国の街の様子が、16世紀ころから今に至るまで残っているから、というところもあるのですが。

例えば、「外海からリドの外港をとってヴェネツィアの潟に入ってくると、霧でも立ち込めていない限り、すでにそのあたりからベネチアの都の全貌を目にすることができる。まるでシネマスコープを見るように、宮殿や鐘楼や元首官邸が、はるかかなたの波の上に浮かんでいるのが見える。(中略)。船がヴェネツィアの街の東側にある国営造船所を右に見、聖ジョルジョの島やジュデッカの島を左に進むことになると、バラ色の元首官邸の中老に立つ人の顔の表情さえ、わかるようになるくらいだ。(中公文庫 海の都の物語 上 284-285 p)」という記述があります。これに近い写真が以下となります。時代やアングルから、ピッタリ一致というわけにはいかないのですが、だいたいこんな感じで、ヴァポレットでリドやムラーノに行った帰りだと、ここに記述されている風景を見ることはできるはずです。

というわけで、ベネチアに訪れる際は、事前でも事後でもぜひこの海の都の物語を読んでみてください。背景知識があると、観光旅行もぐっと重層的になって、面白いものですよ。

 

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